
子どもが本番・試合で緊張して力を出せない時|メンタルトレーニング技法
2026年7月更新
「練習ではうまくいくのに、試合になると力が出ない」。そんなお子さんの悩みを聞いたことはありませんか。実は、これは「メンタルの問題」であり、トレーニングで改善できるスキルです。スポーツ庁は、子ども向けのメンタルトレーニング技法を公開しており、親と子で実践することができます。
緊張は「悪い」のか?
まず大切な理解として「緊張は必ずしも悪いものではない」ということを知ってください。スポーツ心理学には、有名な法則があります。
ヤーキーズ・ドッドソンの法則(逆 U 字理論)
1908 年に心理学者が提唱した法則で、次のことが分かっています:
- ●覚醒水準(ストレスや緊張のレベル)が低すぎると、パフォーマンスが落ちる
- ●覚醒水準が中程度(適度な緊張)のとき、最も良いパフォーマンスを発揮できる
- ●覚醒水準が高すぎても(緊張しすぎて)、パフォーマンスが低下する
つまり、「全く緊張していない状態」と「緊張しすぎている状態」の両方が悪く、「ちょうど良い適度な緊張」が最高のパフォーマンスを引き出すのです。
大切なのは「緊張をなくすこと」ではなく「緊張をコントロールすること」です。この「コントロール」のスキルを習得するのが、メンタルトレーニングの目的です。
スポーツ庁が公開する 4 つのメンタルトレーニング技法
スポーツ庁は、アスリートから子どもまで実践できるメンタルトレーニング技法を公開しています。以下の 4 つが代表的です。
1. 呼吸法(リラクセーション技法)
最もシンプルで、どこででも実践できるのが「呼吸法」です。緊張したときは、無意識に呼吸が浅くなります。意識的にゆっくり、深い呼吸をすることで、身体と心をリラックスさせることができます。
基本的な呼吸法
- 座った状態で背筋を伸ばす
- 鼻からゆっくり(4 秒かけて)吸う
- その状態で 7 秒間止める
- 口からゆっくり(8 秒かけて)吐き出す
※ 4 秒吸って 7 秒止めて 8 秒かけて吐く「4-7-8 呼吸法」は、日本オリンピック委員会(JOC)でも採用されています
試合の 10 分前や、本番直前に 5 回~10 回繰り返すだけでも、効果が期待できます。子どもが学習しやすい簡単な技法です。
2. 漸進的筋弛緩法
「身体の緊張」と「心の緊張」は連動しています。意図的に筋肉を緊張させたあと、一気に弛緩させることで「リラックスしている状態」を学ぶ技法です。
実践方法(1 つの筋肉グループの例)
- 握こぶしを作って、約 5 秒間、力感 50~70% 程度の強さで握る
- その後、一気に力を抜く
- 「ああ、これがリラックスしている状態だ」と感覚を認識する
これを両腕、両脚、腹部、胸部など、全身の筋肉グループに対して繰り返します。この技法を習慣づけると、試合中でも自発的にリラックス状態を作ることができるようになります。
この技法は、「身体の感覚」を通じて「リラックスする方法」を学ぶので、言葉で理解しにくい子どもにも効果的です。
3. イメージトレーニング(イメージ技法)
「イメージトレーニング」は、脳内で成功場面を繰り返し想像することで、実際のパフォーマンスを高めるメンタルトレーニング技法です。
実践ポイント
- 効果実際の動作の 70% 以上の効果があるとされています
- タイミング就寝前の 5 分間、成功している場面を細部まで想像する習慣が効果的
- 精度イメージが鮮明であるほど効果が高まります。「視覚」だけでなく、音、触覚、感情まで含めて想像する
親が「試合のその場面を思い出して、細かく教えてくれる」ことで、子どもがより具体的にイメージしやすくなります。
4. 注意の切り替え技法
試合中に「失敗を引きずる」「余計なことを考える」という状態から、「今、ここにある競技に集中する」という状態に切り替えるスキルです。
実践方法
- ・視線の固定:決まった場所(目標など)に視線を固定して、集中力を保つ
- ・キューワード:「いけ」「よし」など、子ども自身が決めた合図の言葉を心の中で唱える
これは「雑念を完全になくす」のではなく「今の競技に注意を集中させる」という実用的な技法です。
「ゾーン」に入る状態を作ること
メンタルトレーニングの最終的な目的は「ゾーン」に入ることです。ゾーンとは、時間を忘れて競技に没頭し、実力が最大限に引き出される状態のことです。
ゾーンに入る条件
ゾーンに入るためには「適度な緊張とリラックスのバランスがとれている状態」が必要です。これが、先ほど説明したヤーキーズ・ドッドソンの法則における「中程度の覚醒水準」にあたります。
上記 4 つのメンタルトレーニング技法は、全て「その子が自分でゾーンに入る状態を作る」ためのツールなのです。
親と指導者ができる支援
メンタルトレーニングのスキルは「習慣化」することで初めて試合で発揮されます。親と指導者が、その環境づくりをサポートすることが大切です。
親ができること
- ・毎日の呼吸法やイメージトレーニングを習慣化する時間をつくる
- ・試合前に子どもと一緒にメンタルトレーニングを実践する
- ・試合後に「何がうまくいったか」を一緒に振り返る
指導者ができること
- ・練習の一環にメンタルトレーニングを組み込む
- ・試合直前に子どもがメンタルスキルを実践する時間を確保する
- ・子どもが「ゾーンに入れた瞬間」を認識できるようにサポートする
メンタルトレーニングは「一度習ったら終わり」ではなく、スポーツトレーニングと同じように「継続的な実践」が必要です。
参考:スポーツ心理学の研究
日本でも、メンタルトレーニングに関する研究や教育活動が進んでいます。
- 日本スポーツ心理学会は、メンタルトレーニング指導士の資格制度を設けており、専門家の育成を行っています
- 機関誌『スポーツ心理学研究』でメンタルトレーニング関連の最新研究が発表されています
- 2021 年からは、中学生・高校生や市民向けのスポーツ心理学入門講座をオンライン形式で実施しており、誰でもアクセス可能になっています
実践のポイント
- 段階的に最初は 1 つの技法から始め、習慣化してから他の技法を加える
- 毎日の練習試合の数週間前から、毎日練習に組み込むことが効果的
- フィードバック試合後に「何がうまくいったか」を一緒に振り返り、改善点を見つける
- 個性を尊重子どもによって効果的な技法は異なるため、複数の方法を試して最適なものを見つける
まとめ
- ・緊張は「悪い」のではなく、コントロールすべきもの
- ・適度な緊張がパフォーマンスを高める(ヤーキーズ・ドッドソンの法則)
- ・スポーツ庁が公開する 4 つのメンタルトレーニング技法は、すべて実践可能
- ・「ゾーン」に入る状態を自分で作ることが最終目標
- ・親と指導者のサポートと習慣化が成功の鍵
「試合で力が出ない」というお子さんの悩みは、実は改善可能な課題です。メンタルトレーニングを通じて、お子さんが自分の緊張をコントロールし、試合で最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートしていきましょう。
出典・参考資料
- 文部科学省(スポーツ庁委託)「体力・運動能力調査報告書」— 新体力テスト8種目の全国平均値データ
- スポーツ庁「メンタルトレーニング基礎講座」 https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/study/sports_psychology/tabid/1473/Default.aspx
- スポーツ庁「心理学的サポートガイド」 https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/hpsc/shinri08.pdf
- 日本スポーツ心理学会 https://www.jssp.jp/
- 秋田県教育委員会「メンタルトレーニング」 https://common3.pref.akita.lg.jp/aiss/science/minikomi/h22.Mental5.pdf
- ※ 運動発達・スポーツ科学に関する内容は、スポーツ科学分野で広く知られた知見をもとに当サイトが解説したものです。